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外見 |
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銀白色
カリウムのスペクトル線 |
一般特性 |
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名称, 記号, 番号 | カリウム, K, 19 |
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分類 | アルカリ金属 |
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族, 周期, ブロック | 1, 4, s |
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原子量 | 39.0983(1) g·mol-1 |
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電子配置 | [Ar] 4s1 |
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電子殻 | 2, 8, 8, 1(画像) |
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物理特性 |
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相 | 固体 |
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密度 (室温付近) | 0.862 g·cm-3 |
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融点での液体密度 | 0.828 g·cm-3 |
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融点 | 336.53 K, 63.38 °C, 146.08 °F |
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沸点 | 1032 K, 759 °C, 1398 °F |
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三重点 | 336.35 K (63°C), kPa |
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融解熱 | 2.33 kJ·mol-1 |
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蒸発熱 | 76.9 kJ·mol-1 |
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熱容量 | (25 °C) 29.6 J·mol-1·K-1 |
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原子特性 |
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酸化数 | 1(強塩基性酸化物) |
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電気陰性度 | 0.82 (ポーリングの値) |
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イオン化エネルギー (詳細) | 第1: 418.8 kJ·mol-1 |
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第2: 3052 kJ·mol-1 |
第3: 4420 kJ·mol-1 |
原子半径 | 227 pm |
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共有結合半径 | 203±12 pm |
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ファンデルワールス半径 | 275 pm |
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その他 |
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結晶構造 | 体心立方 |
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磁性 | 常磁性 |
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電気抵抗率 | (20 °C) 72 nΩ·m |
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熱伝導率 | (300 K) 102.5 W·m-1·K-1 |
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熱膨張率 | (25 °C) 83.3 µm·m-1·K-1 |
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音の伝わる速さ (微細ロッド) | (20 °C) 2000 m/s |
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ヤング率 | 3.53 GPa |
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剛性率 | 1.3 GPa |
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体積弾性率 | 3.1 GPa |
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モース硬度 | 0.4 |
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ブリネル硬度 | 0.363 MPa |
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CAS登録番号 | 7440-09-7 |
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最安定同位体 |
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詳細はカリウムの同位体を参照 |
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カリウム (ドイツ語: Kalium, 新ラテン語: kalium) は原子番号19の元素で、元素記号は K である。アルカリ金属類に属す典型元素である。医学・薬学や栄養学などの分野では英語のポタシウム (potassium) が使われることもある。和名では、かつて加里(カリ)または剥荅叟母(ぽたしうむ)という当て字が用いられた。
カリウムの単体金属は激しい反応性を持つ。電子を1個失って陽イオン K+ になりやすく、自然界ではその形でのみ存在する。地殻中では2.6%を占める7番目に存在量の多い元素であり、花崗岩やカーナライトなどの鉱石に含まれる。塩化カリウムの形で採取され、そのままあるいは各種の加工を経て別の化合物として、肥料、食品添加物、火薬などさまざまな用途に使われる。
生物にとっての必須元素であり、神経伝達で重要な役割を果たす。人体では8番目もしくは9番目に多く含まれる。植物の生育にも欠かせないため、肥料3要素の一つに数えられる。
[編集] 単体の特徴
[編集] 物理的性質
銀白色の金属で、常温・常圧で安定な結晶構造は体心立方構造 (BCC) である[1]。比重は0.86で水より軽く、リチウムに次いで2番目に比重の軽い金属である。融点は 63.7 °C、沸点は 774 °C[1]。ナイフで簡単に切れる軟らかい金属である。
カリウムの電子配置は[Ar] 4s1であり、電子を1つ失うことで非常に安定なアルゴンと同じ希ガス型の電子配置となる。そのため、カリウムの第一イオン化エネルギーは 418.8 kJ/mol と非常に低く、容易に電子を1つ失いK+の陽イオンとなる。対照的に、電子を2個失えば安定な希ガス型の電子配置が崩れるため、第二イオン化エネルギーは 3052 kJ/mol と非常に高く[2]、+2価の酸化状態の化合物は容易には形成されない[3]。このようにカリウムは1価の陽イオンに非常になりやすい性質を有しているが、アルカリドイオンの K− も知られている[3]。
炎色反応において、カリウムとその化合物は淡紫色を呈する。主要な輝線は波長 404.5 nm の紫色のスペクトル線および、波長 769.9 nm と 766.5 nm の赤色の対となったスペクトル線(双子線)である[4]。ナトリウムと共存していると、ナトリウムの強い黄色の発色によって覆い隠されることもあるが、コバルトガラスを使うことでこのナトリウムの強く黄色い炎色を除去することができる[5]。
[編集] 化学的性質
アルカリ金属類の窒素以外の試薬に対する反応性は電気陰性度が低いほど高くなるため、カリウムは、より電気陰性度の大きいリチウム、ナトリウムよりも反応性が高く、より電気陰性度の小さいルビジウム、セシウムよりは反応性が低い[6]。切断してすぐのカリウムの断面は銀色の外観をしているが、空気によってただちに酸化されて灰色へと変色していく[7]。
水、ハロゲン元素と激しく発火して反応する。高温では水素とも反応し水素化カリウムを生成する[8]。カリウムと水との反応においては、反応によって水素が発生し、さらに発生した水素が引火するに足る反応熱を生じるため爆発の危険がある[9]。その上、水素の燃焼によって生じた水が残ったカリウムと再び反応して水素をさらに発生させるため、金属カリウムが消費され尽くすまでこの反応は進行し続ける[10]。このカリウムの性質は、金属カリウムやナトリウム-カリウム合金として、蒸留前に溶媒を乾燥させるための強力な乾燥剤として利用される[10][11]。空気中においても酸素との接触により反応熱で自然発火することもある[12]。そのため金属カリウムの保管は空気や水から遮断する必要があり、他のアルカリ金属と同様に鉱油やケロシンのようなアルカリ金属類と直接反応をしない炭化水素中やアルゴンで満たしたガラスアンプル中などで保管される[13]。アルコールとも反応してアルコキシドを生成する[14]。カリウムは液体アンモニアに対する溶解度が非常に高く、0 °C で 1000 g のアンモニアに対して 480 g のカリウムが溶解する。その溶液は黄みがかった青色であり、その電気伝導度は液体金属に類似している。純粋な液体アンモニアに対しては、徐々に反応してKNH2を形成するが、微量の遷移金属元素の塩が存在していると反応が加速される[15]。
カリウムの化合物は、K+ イオンの水和エネルギーの高さのため水に対する溶解性が非常に高く、従ってカリウムイオンを沈降分離させることは困難である。考えられる沈降方法としては、テトラフェニルホウ酸ナトリウムやヘキサクロロ白金(IV)酸、亜硝酸コバルチナトリウムとの反応が挙げられる[10]。
溶液中のカリウム濃度は、一般にフレーム測光法(英語版)や原子吸光分析、イオンクロマトグラフィーによって測定される[16][17]。誘導結合プラズマ発光分光分析[18]、イオン選択電極(英語版)なども利用される。イオン選択電極を用いて測定する場合には、イオン選択電極において通常用いられる塩化カリウムを用いた塩橋を使用すると、塩橋からのカリウムイオンの混入により分析誤差が生じるため、カリウムを分析する際には硝酸アンモニウムなどが用いられる[19]。また、カリウムは非常にイオン化しやすいため、原子吸光分析を行う際に他の共存元素のイオン化平衡に干渉(イオン化干渉)して、他の元素の測定値に影響を与える[20]。
詳細は「カリウムの同位体」を参照
カリウムは宇宙において、より軽い元素から合成される(元素合成)。カリウムの安定同位体は、超新星においてより軽い元素が急速に中性子捕獲することによってR過程を経由して形成される(超新星元素合成)[21]。
カリウムには24種類の同位体が存在することが知られている。これらの内、自然に産出するものはカリウム39 (93.3%)、カリウム40 (0.0117%)、カリウム41 (6.7%) の3つである。
これらのうち、質量数40のカリウム40は放射性同位体である。半減期はおよそ12.5億年である[22]ため、地球創生時にとりこまれたものが未だに自然界に残存している(元をただせば超新星爆発で核反応がおこって生成・放出されたものとされる)。カリウム40の内11.2%は、電子捕獲もしくは陽電子放出(β+崩壊)によってアルゴン40へと崩壊し、88.8%は陰電子崩壊(β− 崩壊)によって非放射性の安定同位体であるカルシウム40となる[22]。大気中に存在するアルゴンの多くの部分は、このカリウム40の崩壊により生成したものだと考えられている。また、大気中のアルゴン40の一部は宇宙線(太陽からの放射線)と反応することによりカリウム40となる。このためカリウム40は炭素14とともに常時生成されている。
カリウム40は、カリウムが商用の代用塩として大量に用いられるほどに自然界から十分な量が産出し、教室での実演のための放射線源に用いられる。このようにカリウムは大量に存在する上に生体に含まれる量も多いため、健康な動物や人間にとって炭素14よりも大きな最大の内部被曝源である。70 kg の体重の人間において、1秒間にカリウム40はおよそ4,400個崩壊する[23]。天然カリウムの活性は 31 Bq/g である[24]。
単体のカリウムは、カリウムのその強い反応性のために自然中からは産出しない[10]。カリウムは様々な化合物として地殻のおよそ2.6%を占めており、地殻の2.8%を占めるナトリウムに次いで地殻中で7番目に存在量の多い元素である(地殻中の元素の存在度も参照)[25]。例えば花崗岩はカリウムをおおよそ5%と、地殻の平均量以上を含んでいる。金属カリウムは非常に電気的に陽性であり(電気陰性度)、また非常に反応性が高いため、鉱石から直接生産することは難しい[7]。
工業原料としてのカリウム資源はほぼすべて塩化カリウムの形で採取される。年間生産量は3500万トン(K2O 換算、2008年)である[26]。2008年において、主な産地はカナダ (30.0%)、ロシア連邦 (19.2%)、ベラルーシ (14.2%)[26]。推定埋蔵量は K2O 換算でおよそ180億トン[26]。カリウムは植物の成長に必須であるため、塩化カリウムの90%以上はそのまま、もしくは硫酸カリウムの形で肥料(カリ肥料)として用いられる[27]。残りは水酸化カリウムを経由して、炭酸カリウムとなる。
[編集] 商業生産
純粋なカリウム金属は水酸化カリウムの電気分解という、19世紀初期にハンフリー・デービーがカリウムを単離した方法とほぼ同じプロセスで単離することができる[7]。この電気分解による製法は1920年代に開発され産業規模で用いられていたものの、金属ナトリウムと塩化カリウムを化学平衡を利用して反応させることによる熱的方法が1950年代には主流となった。この方法は反応時間および反応に用いるナトリウムの量を変えることでナトリウム-カリウム合金も生産することができる。フッ化カリウムと炭酸カルシウムの反応を利用するグリースハイマー法もまた、カリウムの生産に利用される[28][29]。
- Na + KCl → NaCl + K (熱的方法)
- 2 KF + CaC2 → 2 K + CaF2 + 2 C (グリースハイマー法)
また、カーナライトやラングバイナイト(英語版)、ポリハライト(英語版)、カリ岩塩(英語版)などカリウム含有量が非常に高い鉱石を用いて、商業生産できる規模のカリウム塩類を抽出することも出来る。[28]。世界における主要なカリウムの供給源はカナダ、ロシア、ベラルーシ、ドイツ、イスラエル、アメリカ、ヨルダンだが、他にも世界中の様々な場所で採掘されている[30]。カナダの行政区、サスカチュワン州の地下3,000フィートには、地球上で最大のカリウム鉱床が発見されている。サスカチュワンでは大規模な鉱山が1960年代から操業しており、ブレアモア(英語版)地層において、鉱山に縦穴貫通孔を通すために湿った砂を凍らせる手法を開発した。サスカチュワンの主なカリウム採掘会社としてポタッシュ・コープ(英語版)がある[31]。
海はもう一つの主要なカリウム源であるが、単位量当たりのカリウム含有量は 0.39 g/L とナトリウムが 10.8 g/L であるのと比べて非常に低い[32][33][34]。これはカリウムが土壌に吸着されやすく、また植物によって吸収されるためである[35]。
色々な方法でカリウム塩類をナトリウムおよびマグネシウム化合物から分離し、それによって生じたナトリウムやマグネシウムの副産物は地下に保存されるかボタ山に積み上げられる。採掘されたカリウム鉱石の大部分は処理されて最終的に塩化カリウムとなる。塩化カリウムは鉱山産業において、カリ (potash)、カリの塩 (muriate of potash) もしくは単純に MOP と呼ばれる[28]。
試薬グレードの金属カリウムは、1ポンドあたりおよそ10ドル(1キロあたり22ドル)で売られている。純度の低いものは相応に安く販売される。カリウム金属市場は、金属カリウムの長期保管が困難であるために不安定である。金属カリウムは、その表面で超酸化カリウムが形成されないように乾燥した不活性ガスもしくは無水の鉱油中で保存しなければならない。この超酸化物は引っ掻かれた際に爆発を起こす、感圧性の爆薬である。超酸化物の形成が引き起こす爆発は、時に消火の難しい火災を引き起こす。[36]。
キログラム単位よりも多い量のカリウムは1キロあたり700ドルと、非常に大きなコストが生じる。これは危険物の輸送に必要なコストのためである[37]。
[編集] 生理作用
カリウムは人体で8番目もしくは9番目に多く含まれる元素であり、体重のおよそ0.2%を占めている(すなわち、60 kg の成人ではおよそ 120 g のカリウムが含まれる)[38]。これは硫黄や塩素と同程度の含有量であり、主要なミネラルでカリウムより多く含まれているのはカルシウムとリンのみである[39]。
[編集] 神経伝達
詳細は「イオンチャネル」、「膜電位」、および「活動電位」を参照